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クラブのレジェンドであるピクシーを監督に据えた今シーズンは期待と不安が半々に入り混じった中でのスタートだった。昨シーズンのレビューの中でも書いた通り、俺はピクシーの監督としての資質についてはむしろポジティブに捉えていたが、実際にピッチ上でプレーするのは選手であり、いくらピクシーが笛を吹けども肝心の選手が踊らなければ成功は望めないわけで、クラブにとって最後の切り札であるピクシーで失敗した時のリスクを考えると、ピクシーの登板はもう少しチームが成熟してからの方が良いのではないかと思っていた。 ピクシーに関して不安があったとすればやはり指導者としての「経験」の部分。ただそれ自体はコーチングスタッフなどによって十分に補っていけるものであり、むしろ俺が心配していたのは、それが選手達の「言い訳」の材料に使われるのではないかということだ。名古屋というクラブには伝統的に「言い訳体質」が染みついておりそれを許容してしまうような甘さがクラブを取り巻く環境には存在する。指導経験のない名前だけの新米監督は格好のスケープゴートになりかねなかった。 そしてチームの始動を目前に控えた1月、さっそくフィールドプレーヤーでチーム最古参の大森が移籍志願をブチ上げる。真意のほどは定かではないが、一部報道などによれば大森に対して全幅の信頼を寄せ起用してくれたフェルフォーセンの後任にはそのフェルフォーセンのもとでコーチを務めたドワイトを推していたという話もあり、そこには新人監督ピクシーに対する軽視とそんなピクシーを監督に据えたクラブに対する不満が見え隠れする。久米GMはこのタイミングでの中心選手の移籍がチームに及ぼす影響を考えてか慰留に努めて大森を翻意させたが、むしろその立場も顧みずチームの和を乱すような選手は移籍させるべきだったと俺は思っている。残り少ない現役生活を自らの望む形で全うしたいという思いは尊重するが、大森の行動は明らかに周りに対する配慮を欠いていた。 戦力補強の面では、層の薄いポジションのバックアップに三木や深井といったベテランを獲得したものの、昨オフの目玉であった家長を取り逃がしたことで、本田と金正友という二人の主力が抜けた補充にマギヌン一人という差し引きで考えればマイナスな感は否めなかった。ただスピラールがシーズンの半分ほどしか稼働していなかったことを考えると、ピクシーが母国セルビアから連れて来たバヤリッツァが持てる力を発揮すれば戦力的には上積みされる可能性もあり、新監督のもと一からチームを作り直すよりは、前任者のベースを踏襲しつつ土台を固める一年としてはかえってこの方が良かったのかもしれない。 そうして迎えた新シーズンの開幕。豊スタに京都を迎えた名古屋は結果こそ1-1のドローに終わったものの昨シーズンからは見違えるほどのアグレッシブなサッカー披露し、続く第2節にはAWAYで2007年のアジア王者・浦和を粉砕して初勝利。その勢いに乗って破竹の6連勝を記録した。個人的にはピクシーは意外と堅守速攻のカウンター型のチームを作って来るのではないかと予想していたが、ピクシーが標榜する「美しく攻撃的なサッカー」の特徴はパスをつなぎながら徹底的なサイドアタックを行うことにあった。サイドチェンジを入れながらサイドを基点に攻撃するスタイルはベンゲル時代を彷彿とさせるが、そこにサイドバック(SB)が絡んで数的優位を作り出す点では時代の潮流に沿ったピクシーのアレンジが加えられている。フェルフォーセン時代と比べてもとにかくタテにボールが入り前に進んでいく攻撃は観ていても爽快だった。フェルフォーセンが徹底していた前が詰まったら無理をしないで最終ラインまでボールを戻して作り直すという考え方はパスサッカーの常識だが、そうしたスタイルが日本人(特に名古屋のようなチーム)に正しく理解され根付くには時間が掛かると俺は思っている。実際07シーズンの名古屋では必要以上に最終ラインでの横パスが横行している気がしていたし、いつしかボールを奪われないことが目的となり安全志向でチャレンジする回数も減ってきていた。そう考えるとピクシーの意識付けはチームにも上手く浸透していたようだ。 しかし対戦相手が名古屋の戦い方を把握していなかった開幕当初はともかく、相手に研究されてくると次第に戦いは苦しいものになっていった。そしてそれが顕著な形で出ていたのがリーグ戦初黒星を喫した東京V戦だ。4-3-1-2のようなフォーメーションのヴェルディは、名古屋の攻撃の基点となる両SHに対してむしろそこにボールを誘い込み、SBと中盤の「3」の両サイドの選手が挟み込んでこれを封じ込めた。このフォーメーションはヴェルディがフッキ欠場によって苦し紛れに組んだものだったというのだから何とも皮肉な話だ。 名古屋は基本的にボランチの二人がゲームメークに関与しない。ボランチの仕事はサイドが詰まった時にサイドチェンジの中継地点として右から左へボールを受け渡すことぐらいで、前線にボールを入れるのはむしろSB(阿部)を中心にDFラインの役目だった。そこから両SHや2トップにボールが入ったところで名古屋は攻撃のスイッチが入る。ヨンセンにクサビのボールを当てて相手ディフェンスを真ん中に集中させることで両サイドにスペースを作り出し、いい形で両SHにボールが渡れば後ろからSBがクロスオーバーして数的優位を作り出すというのがオーソドックスな名古屋の攻撃だが、ヨンセンへのパスコースを消されると苦し紛れにSHにボールを回すしかなくなってしまう。当然そこではマークも外れていなければ守備の組織も崩れていない。名古屋のSBがオーバラップして数的優位を作り出す前に相手に囲まれて逆に数的優位を作られてしまうと名古屋は打つ手がなかった。そんな中でも名古屋が夏場に勝ち点を積み上げることが出来、最終節まで優勝争いに絡むことが出来たのは、相手のマークをもろともしない強引な突破と得点力によって今シーズンの急成長を改めて印象付けた小川と、「中途半端」なポジショニングと抜群のキープ力で攻撃に変化を付けたマギヌンの両SHコンビのパフォーマンスがレベルを超越したものだったからに他ならない。 またそんな中にあってクローズアップされたのが玉田の存在だった。ピクシーのもとで輝きを取り戻した玉田は日本代表復帰を果たし、豊スタでのコートジボワール戦や神戸でのシリア戦、さらにはW杯最終予選でもウズベキスタン戦・カタール戦でゴールを積み重ねているが、クラブ(名古屋)にとっても代表で不在だったナビスコカップ準決勝(大分戦)で逆にその存在が見直される結果になった。単なるドリブルが武器の俊足ストライカーという枠に収まらないプレースタイルの玉田は、チームが攻撃に詰まった時には中盤に下がってボールを引き出し機能停止寸前のパスサッカーに循環と再鼓動をもたらすことが出来る。完全にスペースを消され名古屋の攻撃が大分の予測の範囲を越えられない状況で玉田の存在が必要とされたのも当然の成り行きだった。 ただ玉田が担っているそんな仕事はアーセナルで言えばセスクがやっている仕事であり、個人的な感想を言うならばWボランチのうちのどちらかがそれをこなすのが理想だと思う。そしてシーズン前に掲げた10ゴール10アシストというFWとしての目標に遠く及ばなかった玉田のクラブでの成績には全く満足出来ない。チームの攻撃が行き詰り始め玉田のプレーエリアが下がっていくとともに、シーズン開幕当初に見られていたようなヨンセンが引いてポストを受けた裏のスペースを狙うようなコンビプレーが見られなくなったのも残念だ。充実した陣容の中盤から良いパスが出て来る代表ではゴール前(アタッキングサード)での仕事に集中してゴールを量産している様子を見ているとその思いは益々強くなる。 一方の守備では、既に語り尽くされた感があるが、裏を取らせないことを念頭に置いたラインコントロールを行うDFラインと「前に」ボールを追い回すボランチの間のギャップを使われて失点するシーンが目立ち、小笠原(第14節・鹿島戦)や成岡(第17節・磐田戦)やウェズレイ(ナビスコ準決勝・大分戦)などに鮮やかなミドルシュートを叩き込まれたのはその象徴的なシーンだった。また攻撃においてはプラスに作用していたマギヌンの中途半端なポジショニングが守備に回ると組織のバランスを崩してたところを見るまでもなく、4人の中盤がフィールドの横幅を均等に守るというよりはWボランチへの負担が極度に大きい名古屋の中盤は、この二人がその驚異的な運動量によって前後左右に走り回って無理矢理スペースを埋めていた感が強く、中盤でしっかりとボールを動かしてゲームを作って来るチームに対してはいいようにパスを回され後手に回ることを余儀なくされた。 ただピクシーは例えば第19節の川崎戦あたりで見せたように夏場に向けて前線から無理にボールを追うのではなくまずはそれぞれのポジションに戻って守備ブロックを作りそこからカウンターを狙うような変更を施したり、シーズンも終盤に近付くにつれDFラインも前への出足が良くなり中盤とのギャップが気にならなくなるなど、微妙な調整を行いながらシーズンを乗り切った。それはセットプレーについてもしかりで、一向に改善しなかったセットプレーからの決定力とは対象的に、ベンゲル式とフェルフォーセン式をミックスしたようなピクシー流のゾーンディフェンスに対してあの手この手で挑んでくる相手チームに対して、少しづつ修正を加えながら穴を消して行った。実際高さでは他チームに対して圧倒的な優位性を持つ名古屋がゾーンで守るという選択は正しく、対戦相手はニアやファー、ヨンセンと後ろの選手のギャップ、ペナルティスポットのあたりとゾーンを外したボールを蹴り入れてきたが、しっかりと集中してさえいればそう簡単に失点するような気はしなかった。 結果的に今シーズンの名古屋はリーグ戦で最終節まで優勝争いを演じて3位、ナビスコカップもベスト4という好成績を残した。勝ち点3が必要だった最終節でも勝ち切れなかったことや天皇杯でなんとなくゲームに入って準々決勝で手負いのG大阪に敗退したことなど歯痒さも残るが、ピクシーの監督初年度ということを考えれば、チーム間の実力が均衡して大混戦だったことを差し引いても上々の結果と言える。しかしおそらくこのままでは来シーズンも同様の結果を残すことは難しいだろう。それはシーズン終盤の失速を見るまでもなく明らかだ。 他チームのマークが厳しくなるであろう09シーズンは勢いでは勝ち抜けないだろうし、中盤を中心にもっとソリッドな組織を作らなければならない。また過密日程を考慮すれば、もっとゲームをコントロールし、苦しい中でもしぶとく勝ち点3を獲得する勝負強さを身に付けなければならない。そしてそのためには中盤のWボランチがもっとボールに絡んでゲームを作らなければならないし、セットプレーからの得点力を向上すべく精度を上げることが必須条件だ。 チームは既に新シーズンに向けて動き出している。二年半の間チームの最前線で身体を張り続けたヨンセンに代わり札幌からダヴィを獲得し、藤田、大森、米山、三木といったベテラン選手との契約も更新せず若返りに踏み切った。横浜・田中隼の獲得なども噂され、年が明ければ補強の話ももっと具体的な姿を見せてくるだろう。OB路線での組閣も進んでいる。クラブには財政面など俺達には見えない事情があるので、一ファンとしてただ信じて待つことしか出来ない。(ユースまでOB路線にするかどうかは別問題だが・・・) 個人的にはヨンセンからダヴィへのスイッチについては前向きに捉えている。100%チームのために闘ってくれる選手だったヨンセンは、さすがにシーズン終盤には相手のマークもキツくなり得点のペースも落ちたが、いわゆるハズレのない選手だった。チームがどんなにだらしないパフォーマンスを披露した試合でも、ヨンセンに対して「裏切られた」気分で競技場を後にしたことは一度もない。しかしピクシー自身が目指しているサッカーを実現する上でDFラインの裏に抜けるスピードを持ったストライカーが必要というのであればそれは仕方がない話。 例えば、前からプレッシャーを掛けて奪ったボールを素早く最前線のヨンセンに預けたとする。ヨンセンなら相手DFを背負いながら味方の上がりを待ってそれを使うことが出来る。だがダヴィならDFラインの裏へ抜けながらボールを受けることが出来るし、相手を背負ってボールを受けてもそのままターンしてゴールへと向かうことが出来る。最大のゴールチャンスであるカウンターからゴールへの最速ルートを考えた時優れているのは後者だが、ヨンセンにはその選択肢はない。またヨンセンのゴールパターンはサイドからのクロスに限定される(スルーパスからゴールを決めたのは07シーズンの味スタで本田のパスから決めたのぐらいしか思い付かない)が、ダヴィなら(ハイクロスに合わせる技術ではヨンセンに及ばないものの)得点パターンにもう少しレパートリーを広げられるだろう。もちろんそんなダヴィを生かすためには、中盤のセンターにダヴィの動き出しを見逃さずパス(スルーパス)を送れるような選手(札幌で言えばクライトン)が不可欠だし、クロスボールからの決定力の低下を補うためには玉田を筆頭にボックス内へと詰める人数を増やさなければならない。 不安があるとすれば、まずはダヴィと玉田のプレーエリアが被ること。もちろん玉田もダヴィも一流選手なのでそれぞれの持ち場を離れてもプレー出来るだろうが、それぞれが最も得意としているエリアが重複していてはパワーは半減してしまう。あと意外と見落としがちな点ではあるが、ヨンセンが抜けた後にセットプレー時のゾーンディフンスが機能するのかどうかということ。ダヴィもサイズだけ見ればヨンセンと遜色ないが、個々のプレーヤーが最大限の集中力と戦術的な規律を守ることで成り立つ名古屋のゾーンディフェンスにおいて、信頼度抜群だったヨンセンの代わりがダヴィに務まるだろうか。これは竹内の代わりに田中隼が入ったとしても同じこと。ボールサイドから順にヨンセン、増川、吉田、竹内という180cm超の選手が並んでいたゾーンディフェンスから、ダヴィ、増川(バヤリッツァ)、吉田、田中という並びに変わったとしたら、不安を感じるのは俺だけではないだろう。 とにもかくにも、ACLというクラブ史上最大の難関にしてチャレンジが待ち構える2009年は、今年以上にクラブが一丸となり強い持ちを持ってシーズンに臨み良い成績を残して欲しいと思う。
名古屋のU-15にはかつて平林、富岡、神丸、日下などが在籍した代で高円宮杯を制した過去がある。トップ下でエースとして君臨していた10番の平林はトリニダードトバコで開催されたワールドユース(U-17)にも出場していたし、FWの富岡もU-16日本代表としてアジアユースを戦っていた。決勝戦で鮮やかな直接FKを決めた日下(現刈谷)や、破壊的なドリブル突破で左サイドの深谷(一学年下)とともにサイドアタックを担っていた右アウトサイドの神丸もU-16代表候補に選出され合宿に呼ばれている。キラ星の如くタレントが揃った当時のチームはセンセーショナルだったが、それから9年の歳月を経て現れたのが今年の「黄金世代」だった。 三年前の中スポ「ユースニュース」の中で神戸さんが「才能のある選手が多くいる」と書いていたことから勝手に「黄金世代」と呼んでいたこの世代。その原石たちは時を同じくしてヴェルディから迎え入れられた菅沢コーチのもとで順調に成長し、中学最終学年を迎えた今年のクラ選で全国制覇を達成した。言葉にするのは簡単だがこれは大変な偉業。そしてそれにも増して凄いと思うのは菅沢監督が今年のイヤーブックの中で「高円宮杯、クラブユースの二冠を狙う」と高らかに宣言して、実際にそれを狙えるところまでチームを引っ張ってきたこと。これは全国のレベルを知る指導者でなければ到底出来ない芸当だ。かつてトップチームでシーズン開幕を前に「今シーズンは優勝出来る」と断言して、終わってみればクラブ史上最低順位に沈むという失態を演じた主力選手がいた。自分達の力をトップレベルと比較して見極めそこに対して具体的なアプローチを示せるかどうかという点ひとつとっても菅沢監督が優れた指導者であったことが窺い知れる。 俺がこの世代を初めて観たのは去年の高円宮杯・決勝トーナメント一回戦。言うまでもなくU-15世代の最強チームを決めるこの大会で、名古屋は一学年下のU-14の選手がスタメン11人中実に7人を占めていた。さらに驚いたのはキャプテンマークを巻いていたのが二年生の水野だったということだったが、試合を観ていれば彼がキャプテンマークを巻くのに最適な人物であるのは一目瞭然だった。試合は後ろからパスをつなぐ名古屋に対して前線からハイプレスをかける浦和という展開でスタートし、これにつかまった名古屋はハーフコートから出られないような時間帯が続いた。浦和にとってみれば名古屋は自分達のスタイルを実践する上でこれ以上ないカモだった。しかし試合はそれだけで終わらない。後半になって浦和の足が止まり始めると名古屋のパスが面白いように通り始め、前半の一方的なペースが嘘のように逆に浦和を圧倒するような展開になった。結果的に1-2で敗退してしまった名古屋ではあったが、試合内容は(二年生にとって)翌年に向けて期待を抱かせるのに十分なものだったし、個人的にもまた観てみたいと思わせるものだった。 そして迎えた最終学年。二冠に向けての最初の全国大会が夏のクラ選だった。グループリーグ初戦でJFAアカデミー福島を打ち合いの末に下した名古屋は、(同年代のエリートを一蹴してホッとしたわけではないだろうが)第二戦でFCライオスのハードワークの前に思いもよらぬ苦戦を強いられてたものの全勝でグループリーグを突破する。正直なところグループリーグでは対戦相手のチームとも力の差が感じられ、この夏ユーロを制したスペインと同じ4-1-4-1が攻撃面でその真価を発揮していた。絶対的なエースの高原を最前線に据えて、そんなエースにひけを取らない能力を持つその下の4人も積極的にドリブルで勝負を仕掛ける。そして彼等をコントロールして攻撃を司るのがアンカーの水野。また水野は高原のホットラインでも何度かビッグチャンスを作り出していた。 そんな名古屋にとっては決勝トーナメントに入ってからが本当の勝負のようにも思われたが、彼等が見せた勝負強さは想像以上で、俺が再び福島に舞い戻った翌週の準決勝(浦和戦)と決勝(G大阪戦)では(さすがに接戦になったものの)その攻撃的な良さを残しつつチーム一丸となって見事に初の栄冠を手にしたのだった。グループリーグでは攻撃的な役割が目立った前線の選手達も相手ボールになればすぐに戻って守備に加わっていたし、苦しい時間帯には特に陣地を回復するうえで両SBのボールを前に持ち出す力にも助けられていた。大会MVPに選ばれた高原は準決勝・決勝で決勝ゴールを挙げるなどエースの名に恥じない活躍だったが、この大会は全員がMVPだったと言っても過言ではない。 クラ選のファイナリストとして予選免除で臨んだ高円宮杯は、ヴェルディ、京都、仙台というJの下部組織だけで構成された「死のグループ」に入った。そしてそれを象徴するかのように初戦の京都戦で敗れた名古屋が後がない状況で迎えたヴェルディ戦は、文字通り「死闘」という言葉がピッタリの戦いで、コーチ陣も気合が入っていたし、最後まで全く気を抜けない展開に観ている側も終了のホイッスルとともにどっと疲れが出たほどだった。ヴェルディは同じ関東でも個々の力を含めクラ選・準決勝で戦った浦和よりレベルが上に感じられたし、G大阪と比べても遜色ないぐらいのチームだった。そんな相手に対してチームが「美しく散る」のではなく、勝ち抜くために絶対必要だった勝ち点3をしぶとく確保したあたりもこのチームの特徴と言えば特徴だろう。勝つことだけが目標というわけでないことは明らかだが、このチームからはどうやって相手よりも多く点を取って試合に勝つかというスポーツ本来が持つゲーム性(またはそのための戦術や駆け引き)をスタッフも選手も楽しんでいるように感じることが少なくなかった。その傾向は相手が強くなるほどに顕著で、個人的にはクラ選決勝のG大阪戦やこのヴェルディ戦などで特に強く感じられた。 最終節の仙台戦は京都やヴェルディとの得失点差を埋めるためには大量点での勝利が必要という意味でちょっとしたハンディキャップマッチのようなものだったが、苦しみながら(4-0で勝っておいて「苦しみながら」というのも変な話だが・・・)なんとかこれをクリアしてグループ1位で進んだ決勝トーナメント。今度はクラ選とは逆のパターンで、グループリーグで苦しんだ分それと比べるとやや力の落ちる相手と一発勝負のトーナメントを戦わなければならなかったことが名古屋にとっては明暗を分ける結果になった。頭から守備的に来る相手に対して名古屋は終始4-1-4-1での攻撃的なサッカーを貫き、一回戦のフレスカ戦こそ2-0でこれを破ったものの、続く新潟戦ではカウンター一発に沈んでしまう。この二試合名古屋は多くのチャンスを作っていたので、あとは決めるだけという問題ではあったのだが、無情にもシュートは何度もポストやバーを叩きGKのセーブに遭った。一週間前の仙台戦でも得点を上積み出来そうで出来ないという場面がありその予兆はあっただけにこれを修正できなかったことが悔やまれるが、彼等にはこれを次のステップの糧として更なる成長を遂げてもらいたい。そして彼等の躍進を目の前で見ていたU-14世代やその下に続くと噂される「プラチナ世代」がこれを受け継いでクラブとしての歴史を作って行って欲しい。 ![]() ちょうど一年前に同じシチュエーションで当時川崎の所属だったマギヌンを見て、その芳しくないパフォーマンスにただならぬ不安を感じた記憶がある天皇杯準決勝。 試合前からいかに疲れを取るかが課題みたいなアップをしていたG大阪は左足しか使っていない遠藤や接触プレーで股関節のあたりを痛めた橋本といった中心選手が追い討ちをかけるように相次いで途中交代。しかしそんな満身創痍な中にあっても確固たるポリシーとブレることないスタイルで勝利を手繰り寄せたのは感嘆と賞賛に値する。(ただそんなG大阪が相手だったとは言え、闘わずして敗れ去ったどこかのチームは論外だが・・・) 名古屋移籍が噂される横浜の田中隼は、前半はG大阪の左SHルーカスが田中隼と栗原のギャップで微妙なポジションを取っていた影響もあってか、安田とルーカスの間で田中隼自身のプレーも中途半端になってしまっていたところがあったが、後半になるとルーカスが2トップに入ったこともあり、田中隼からも思い切った攻撃参加から良いプレーも見られるようになった。4バックの名古屋に来ればそのあたりの役割分担は明確になっているはずで彼の特徴もより発揮できるだろう。但し田中隼がボールを預けておけばなんでもしてくられる選手ではないということだけは、選手もサポーターも肝に命じておかなければならない。
トップチームの天皇杯敗退を受けて全日程を終了した名古屋の2008シーズン。というわけで年内を目標に順番にシーズンレビューでも書いていこうと思うのだが、まずはJ14日にJユースカップ・決勝トーナメント一回戦でまたしても広島に敗れひと足早くシーズンを終えたU-18から。 去年の高円宮杯で二年連続となる国立競技場でのプレーを実現しベスト4という結果を残したチームの主力のうち、アルベス、磯村、安藤、西部といったセンターラインの選手が残った今年のチーム。それ以外にも鈴木崇、岸寛といった選手達が去年からちょくちょく試合に出ていたし、年代別代表の常連だった中田健太郎や三宅徹といった超高校級の選手が抜け少し小粒になったとは言え、ある程度は安定した成績を残せるだろうというのがシーズン前の俺の予想だった。少なくともクラ選や高円宮杯の予選で姿を消すような心配は全くしていなかった。 そんなチームを俺が最初に観たのは春先の関東遠征で、シーズン(関東大学リーグ)開幕を翌週に控えた早稲田大学の1軍を相手にトレーニングマッチを戦った時。この頃のチームは選手の配置を含めてまだ試行錯誤の色が強かったが、スタメンの2トップにはアルベスと鈴木崇が並んでいたことにまず驚かされた。驚いたと言ってもこれは俺にしてみれば嬉しい驚きで、かつての久保(現明治大)と酒井(現駒澤大)の関係を彷彿とさせるこの二人は、朴監督のサッカーではおそらく実現することのないコンビだろうと俺の中では半ば諦めていた2トップだった。技術の高さとボディバランスの良さをプレーのベースとして相手DFの前にスッと身体を入れるのが上手く柔らかなポストプレーを持ち味とするアルベスと身体能力に優れ爆発力のある突破と左足から放たれる強烈なシュートというスケールの大きなプレーが持ち味の鈴木のコンビは、組み合わせとしても悪くないように思われたし、上手く育てばクラブ史上最も破壊力があり超高校級の2トップになるのではないかと俺は思っていた。 しかしその後全国大会に向けてチームを作り上げていく中でこのコンビは自然と淘汰されていく。3トップの頂点に位置するアルベスは不動の存在だったが、そんなアルベスをサポートするセカンドトップには切れ味鋭いドリブルを持ち味とする奥村情と一年生の加藤翼が重用された。高円宮杯を前にシステムを3-4-3から4-4-2に変更してからもアルベスとの2トップには奥村情が固定され、FW以外に鈴木がハマりそうな左SHにも二年生の矢田旭が定着。そして高円宮杯のほとんどをベンチで過ごすことになった鈴木は二年前にデビューを飾ったJユースカップではチームから離れてしまったようだ。こうして破壊力を秘めた超高校級の2トップという俺の構想はまたしても幻となった。 ただ、アルベス・奥村情のコンビはそんな俺の浅はかな無念を忘れ去らせるぐらい抜群だった。アルベスは上でも書いたように去年のチームでも既に主力を張っており、二年生ながら安定したポストプレーによって名古屋のパスサッカーを支えていたが、今年は高円宮杯でその得点能力が開花した。クラ選のグループリーグ二試合を観た時には去年と比べるとあまりにもボールに触っていなかったので少し心配したが、高円宮杯では決勝トーナメント初戦となった藤枝での磐田戦でCKから2ゴールを決めると、横浜戦、FC東京戦でも連続ゴールを決めて4得点を固め取り。どこに出しても恥ずかしくないストライカーに成長した。中でも均衡したゲームの中で鮮やかなボールコントロールからの右足シュートをゴールに突き刺した横浜戦のゴールはベストゴールだろう。小気味良いドリブルからの思い切りの良いシュートでクラ選でゴールを量産した奥村情はテクニシャンにありがちなムラっ気もなく、とにかくアルベスの周りを尽きることないスタミナで走り続けてチャンスを作り続けていたし、試合の流れの中で中盤(SH)に回されても安定したパフォーマンスを披露していた。印象に残っているのは、左サイドからバイタルエリアをドリブルで横切りながら豪快な右足ミドルを決めたクラ選の鹿島戦と、そのドリブルを誰一人として止められなかった高円宮杯準決勝・FC東京戦だろうか。 中盤では去年からの主力でありキャプテンでもあった安藤亮太がプリンスリーグ途中から病気により離脱。ベンゲルの寵愛を受けた喜名哲裕を彷彿とさせるエレガントなプレースタイルに加えボランチとしての激しさも併せ持つ安藤を全国の舞台で見られなかったのは個人的にもとても残念だった。しかしクラ選ではそんな安藤の高円宮杯での復帰を願って岸寛と磯村のコンビがその不在を埋めて余りあるプレーを見せていた。守備ではボールホルダーに対する素早いチェック、攻撃では前線に入ったボールに対する飛び出しと攻守に渡るハードワークに加えて、その正確な右足からセットプレーでチャンスを演出した岸寛は個人的には奥村情とともに今年のチームのMVPをあげてもよいプレーヤー。唯一のトップ昇格となった磯村もCBなのかボランチなのかSHなのか、そのポリバレント性ゆえに起用法がなかなか安定しなかったが、どこのポジションでプレーしてもそのポジションに応じたパフォーマンスによって突出した存在感を発揮していた。180cmを超える長身で技術もインテリジェンスもある磯村をどこで起用するのかは朴監督でなくても迷うところだが、それはトップチームにとっては間違いなく武器になる。個人的には前目の位置で見たいプレーヤーだが、下級生時代から選択しているいくつかの背番号の好みといいどこのポジションでもこなせる器用さといい、アーセナルからバルセロナに移籍したアレクサンドル・フレブと被る気がするのは俺だけだろうか。 中田健太郎が抜けた左サイドを担っていたのは矢田旭。去年途中交代などで出てきたのを観た時にはドリブル突破が印象に残ったが、技術面だけでなく小柄ながらも身体が強く左足から繰り出すキックの強さと正確性を生かしたプレーはトップチームの阿部に勝るとも劣らないポテンシャルを秘めている。今年のチームでは1年生が数多く起用されていた反面、二年生でコンスタントに経験を積めたのはこの矢田だけ。来シーズンの名古屋ユースにとって名実ともに大黒柱としての期待がこの矢田の双肩に掛かることになる。 1年生が約半数を占めていたディフェンスは左SBの本多と去年から主力だったCBの西部、そしてGKの岩田敦という三年生トリオが支えていた。本多と西部はその正確なフィードによって名古屋の攻撃の起点にもなっていて、しばしばポジションチェンジを交えながら西部が左サイドを駆け上がる(その場合本多が西部のスペースをカバー)シーンなどはなかなか面白かった。特に西部はかつての吉田麻也ほどではないにしろ二年生の時にはアンカーとしての経験を積んでプレーの幅を広げ、また三宅徹ほどではないにしろヘディングでの競り合いにも強い。それらに加えて左足でのロングフィードの精度は高校レベルでもトップクラスにあり、三木と米山の退団に伴うCBと左SB阿部のバックアップが不足しているトップチームにも必要な戦力になるだろうと思っていたが、大学で経験を積んでいつの日か瑞穂のピッチに帰って来て欲しいと思っている。 Jrユースからの昇格が少なく心配された1年生も今年は多くの経験を積んだ。DFラインでは岸光がCB、金編がクラ選では右アウトサイド、高円宮杯では右SBでレギュラーとしてプレーしていた。前目のポジションでもクラ選では加藤翼が、高円宮杯で小幡がそれぞれレギュラーで起用されている。中盤~前線に掛けてタレントが集中している名古屋にあって岸光の存在は貴重。FWからCBに転向してそれほど時間は経っていないようだが、その冷静なプレーは1年生離れしていて安心して見ていられる。フィジカルエリートの金編も朴監督からの信頼と期待がひしひしと感じられた。クラ選では宇佐美、高円宮杯では原口と同年代のスタープレーヤーと対峙してきた経験は来年以降に生きてくるに違いない。後はどこのポジションで起用するのがベストなのかということ。かつての代表監督達が柳本を持て余したように抜群の身体能力を持つ彼の起用法には新監督も頭を悩ませるかも知れない。加藤翼は小柄ながらクラ選の初戦でCKから鹿島DFの隙を付いた先制ゴールを奪い俺の度肝を抜いた。戦術理解が高く運動量があって攻守にハードワーク出来るのが朴監督から重宝された理由だろう。高円宮杯ではチームが3トップをやめて2トップにしたことで出番を失ったが、切れ味鋭いドリブルに身体が出来てくればチームにとって貴重な戦力になる。小幡は高円宮杯から出場機会を得てCHを任された。そしてその役割は、コンビを組んだ岸寛が攻撃になると前線に飛び出していくため必然的にアンカー的なものになった。チームの中でもひと際小柄な小幡だが決してアジリティに優れるタイプではない。すなわちチームは小幡に対してダービッツのようになって欲しかったわけではない。小幡の技術の高さと左足でのパスを生かして中盤(の真ん中)でボールを支配しゲームを組み立てることを期待していたのだろう。しかし対戦相手にも一年生や二年生が多く混ざっていた磐田戦や横浜戦、FC東京戦ではこの狙いがある程度功奏したものの、ほとんどセミプロのような(鍛え方からして違いを感じる)浦和相手にはにべもなく打ち砕かれてしまった。小幡は例えるとするならば本田圭佑を三~四回り小さくしたようなタイプ。本田自身も決して使い勝手の良いプレーヤーではなかったが、本田はあの相手を吹っ飛ばすようなフィジカルがあってこその本田なだけに、どこのポジションで小幡を使うのが彼(の突出したサッカー選手としての能力)を生かすことになるのかは十分に考えなければならない。もちろんそれは小幡のポジションだけに留まらずチーム全体のバランス(どういった補完関係を作るか)の問題でもある。 今年サブだったメンバーの中では二年生の三浦俊希が期待の筆頭。高円宮杯の準々決勝・横浜戦で途中出場ながら何かやってくれそうな雰囲気をまとっていた彼は、予想通り準決勝のFC東京戦でトドメを刺す追加点を決めた。これをブレークスルーのキッカケとして、決してその能力に見合った出場機会が得られていたわけではないこの二年間の悔しさをぶつけるような最終年を期待したい。朴監督自身あまり積極的に交代枠を使う方ではなかったので、その他のメンバーについても出場機会はそれほど多くなかったが、そんな中でも貴重な経験を積んだ近藤や大西にもそれを生かして欲しい。個人的には身長の割にヘディングが得意でなさそうな大西が本来のDFに戻ってプレーするのかそれとも引き続き前線で起用されるのかが気になるところ。大西は日本のヤン・コラーとして育てられるのだろうか。 四年間に渡ってチームを指導してきた朴監督の退任が決まっている来シーズン、神戸―朴体制のもとでは信じられないぐらいの好成績を残してきただけにその成り行きはいやがおうにも注目の的になる。新三年生が6人しかいないことも含めて苦しい戦いになるであろうことは必至なだけに、個人的にはせめてあともう一年朴監督にやって欲しかった思いはある。来シーズンのような年にこそ朴監督のサッカーは真価を発揮するはずだからだ。クラブが打ち出した「OB路線」というものが、長い目で見た時に名古屋というクラブ自体を強くする上で必要な要素であるとするならば甘んじて受け入れるしかないが、ユースは若い指導者に経験を積ませるための組織ではなけれればOBの就職斡旋先でもない。トップチームはともかく(というかむしろ賛成な部分もあるが)、ユース選手の育成にとって何が一番大事なのかを考えた時にそれが「OB路線」であるという結論はどこかピントを外しているように感じる。もちろん名古屋が公式戦三連敗中の広島(森山監督)や今年のJユースカップを制したG大阪(松波監督)もOB路線と言えばOB路線で、次に来る指導者が優れた指導者で(トップチームへの人材供給という)結果を残すことが出来れば結果オーライとなるのだが、お題目が「OB路線」ではやはり不安は拭い切れない。とは言え、俺のような人間には東京でひたすらチームが地区予選を勝ち抜いて来るのを待っていることしか出来ないので、黄金世代が合流予定?の来シーズン、ユースも新しいサイクルを迎えたのだと思って信じて待つほかない(ちなみにこの「サイクル」を考慮すると、上で書いたような「あと1年朴監督で」というのは全く意味がない)。そしてユースの選手達が良い指導者に巡り逢い来年も東京(関東)で素晴らしいプレーを見られることを願わずにはいられない。 ![]() 名古屋が準々決勝でよもやの敗退を喫したことにともない東京ラウンドを見に行くこともないと思っていたが、どうしてもレオーネを見てみたかったので西が丘へ。そしてそんな俺の好奇心半分の期待を裏切ることなく、目に優しいオレンジ色のユニフォームを纏った山口の街クラブは(名古屋と比べるとフィニッシュが少し淡泊な感じもしたが)ショートパスをつなぎながら素早く前へとボールを運びアタッキングエリアでは積極的にドリブルで仕掛ける爽快なサッカーを見せてくれた。結果的には深川にカウンターから浅いディフェンスラインの裏を突かれて4失点の大敗を喫したが、準決勝進出が決してフロックではないこと1300人の観客の前で証明したのではないだろうか。願わくばこのチームと名古屋の決勝が国立で見てみたかった。
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