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2008年 12月 31日 ( 1 )
2008 シーズンレビュー・その3 (トップチーム篇)
 クラブのレジェンドであるピクシーを監督に据えた今シーズンは期待と不安が半々に入り混じった中でのスタートだった。昨シーズンのレビューの中でも書いた通り、俺はピクシーの監督としての資質についてはむしろポジティブに捉えていたが、実際にピッチ上でプレーするのは選手であり、いくらピクシーが笛を吹けども肝心の選手が踊らなければ成功は望めないわけで、クラブにとって最後の切り札であるピクシーで失敗した時のリスクを考えると、ピクシーの登板はもう少しチームが成熟してからの方が良いのではないかと思っていた。
 ピクシーに関して不安があったとすればやはり指導者としての「経験」の部分。ただそれ自体はコーチングスタッフなどによって十分に補っていけるものであり、むしろ俺が心配していたのは、それが選手達の「言い訳」の材料に使われるのではないかということだ。名古屋というクラブには伝統的に「言い訳体質」が染みついておりそれを許容してしまうような甘さがクラブを取り巻く環境には存在する。指導経験のない名前だけの新米監督は格好のスケープゴートになりかねなかった。

 そしてチームの始動を目前に控えた1月、さっそくフィールドプレーヤーでチーム最古参の大森が移籍志願をブチ上げる。真意のほどは定かではないが、一部報道などによれば大森に対して全幅の信頼を寄せ起用してくれたフェルフォーセンの後任にはそのフェルフォーセンのもとでコーチを務めたドワイトを推していたという話もあり、そこには新人監督ピクシーに対する軽視とそんなピクシーを監督に据えたクラブに対する不満が見え隠れする。久米GMはこのタイミングでの中心選手の移籍がチームに及ぼす影響を考えてか慰留に努めて大森を翻意させたが、むしろその立場も顧みずチームの和を乱すような選手は移籍させるべきだったと俺は思っている。残り少ない現役生活を自らの望む形で全うしたいという思いは尊重するが、大森の行動は明らかに周りに対する配慮を欠いていた。

 戦力補強の面では、層の薄いポジションのバックアップに三木や深井といったベテランを獲得したものの、昨オフの目玉であった家長を取り逃がしたことで、本田と金正友という二人の主力が抜けた補充にマギヌン一人という差し引きで考えればマイナスな感は否めなかった。ただスピラールがシーズンの半分ほどしか稼働していなかったことを考えると、ピクシーが母国セルビアから連れて来たバヤリッツァが持てる力を発揮すれば戦力的には上積みされる可能性もあり、新監督のもと一からチームを作り直すよりは、前任者のベースを踏襲しつつ土台を固める一年としてはかえってこの方が良かったのかもしれない。

 そうして迎えた新シーズンの開幕。豊スタに京都を迎えた名古屋は結果こそ1-1のドローに終わったものの昨シーズンからは見違えるほどのアグレッシブなサッカー披露し、続く第2節にはAWAYで2007年のアジア王者・浦和を粉砕して初勝利。その勢いに乗って破竹の6連勝を記録した。個人的にはピクシーは意外と堅守速攻のカウンター型のチームを作って来るのではないかと予想していたが、ピクシーが標榜する「美しく攻撃的なサッカー」の特徴はパスをつなぎながら徹底的なサイドアタックを行うことにあった。サイドチェンジを入れながらサイドを基点に攻撃するスタイルはベンゲル時代を彷彿とさせるが、そこにサイドバック(SB)が絡んで数的優位を作り出す点では時代の潮流に沿ったピクシーのアレンジが加えられている。フェルフォーセン時代と比べてもとにかくタテにボールが入り前に進んでいく攻撃は観ていても爽快だった。フェルフォーセンが徹底していた前が詰まったら無理をしないで最終ラインまでボールを戻して作り直すという考え方はパスサッカーの常識だが、そうしたスタイルが日本人(特に名古屋のようなチーム)に正しく理解され根付くには時間が掛かると俺は思っている。実際07シーズンの名古屋では必要以上に最終ラインでの横パスが横行している気がしていたし、いつしかボールを奪われないことが目的となり安全志向でチャレンジする回数も減ってきていた。そう考えるとピクシーの意識付けはチームにも上手く浸透していたようだ。

 しかし対戦相手が名古屋の戦い方を把握していなかった開幕当初はともかく、相手に研究されてくると次第に戦いは苦しいものになっていった。そしてそれが顕著な形で出ていたのがリーグ戦初黒星を喫した東京V戦だ。4-3-1-2のようなフォーメーションのヴェルディは、名古屋の攻撃の基点となる両SHに対してむしろそこにボールを誘い込み、SBと中盤の「3」の両サイドの選手が挟み込んでこれを封じ込めた。このフォーメーションはヴェルディがフッキ欠場によって苦し紛れに組んだものだったというのだから何とも皮肉な話だ。
 名古屋は基本的にボランチの二人がゲームメークに関与しない。ボランチの仕事はサイドが詰まった時にサイドチェンジの中継地点として右から左へボールを受け渡すことぐらいで、前線にボールを入れるのはむしろSB(阿部)を中心にDFラインの役目だった。そこから両SHや2トップにボールが入ったところで名古屋は攻撃のスイッチが入る。ヨンセンにクサビのボールを当てて相手ディフェンスを真ん中に集中させることで両サイドにスペースを作り出し、いい形で両SHにボールが渡れば後ろからSBがクロスオーバーして数的優位を作り出すというのがオーソドックスな名古屋の攻撃だが、ヨンセンへのパスコースを消されると苦し紛れにSHにボールを回すしかなくなってしまう。当然そこではマークも外れていなければ守備の組織も崩れていない。名古屋のSBがオーバラップして数的優位を作り出す前に相手に囲まれて逆に数的優位を作られてしまうと名古屋は打つ手がなかった。そんな中でも名古屋が夏場に勝ち点を積み上げることが出来、最終節まで優勝争いに絡むことが出来たのは、相手のマークをもろともしない強引な突破と得点力によって今シーズンの急成長を改めて印象付けた小川と、「中途半端」なポジショニングと抜群のキープ力で攻撃に変化を付けたマギヌンの両SHコンビのパフォーマンスがレベルを超越したものだったからに他ならない。

 またそんな中にあってクローズアップされたのが玉田の存在だった。ピクシーのもとで輝きを取り戻した玉田は日本代表復帰を果たし、豊スタでのコートジボワール戦や神戸でのシリア戦、さらにはW杯最終予選でもウズベキスタン戦・カタール戦でゴールを積み重ねているが、クラブ(名古屋)にとっても代表で不在だったナビスコカップ準決勝(大分戦)で逆にその存在が見直される結果になった。単なるドリブルが武器の俊足ストライカーという枠に収まらないプレースタイルの玉田は、チームが攻撃に詰まった時には中盤に下がってボールを引き出し機能停止寸前のパスサッカーに循環と再鼓動をもたらすことが出来る。完全にスペースを消され名古屋の攻撃が大分の予測の範囲を越えられない状況で玉田の存在が必要とされたのも当然の成り行きだった。
 ただ玉田が担っているそんな仕事はアーセナルで言えばセスクがやっている仕事であり、個人的な感想を言うならばWボランチのうちのどちらかがそれをこなすのが理想だと思う。そしてシーズン前に掲げた10ゴール10アシストというFWとしての目標に遠く及ばなかった玉田のクラブでの成績には全く満足出来ない。チームの攻撃が行き詰り始め玉田のプレーエリアが下がっていくとともに、シーズン開幕当初に見られていたようなヨンセンが引いてポストを受けた裏のスペースを狙うようなコンビプレーが見られなくなったのも残念だ。充実した陣容の中盤から良いパスが出て来る代表ではゴール前(アタッキングサード)での仕事に集中してゴールを量産している様子を見ているとその思いは益々強くなる。

 一方の守備では、既に語り尽くされた感があるが、裏を取らせないことを念頭に置いたラインコントロールを行うDFラインと「前に」ボールを追い回すボランチの間のギャップを使われて失点するシーンが目立ち、小笠原(第14節・鹿島戦)や成岡(第17節・磐田戦)やウェズレイ(ナビスコ準決勝・大分戦)などに鮮やかなミドルシュートを叩き込まれたのはその象徴的なシーンだった。また攻撃においてはプラスに作用していたマギヌンの中途半端なポジショニングが守備に回ると組織のバランスを崩してたところを見るまでもなく、4人の中盤がフィールドの横幅を均等に守るというよりはWボランチへの負担が極度に大きい名古屋の中盤は、この二人がその驚異的な運動量によって前後左右に走り回って無理矢理スペースを埋めていた感が強く、中盤でしっかりとボールを動かしてゲームを作って来るチームに対してはいいようにパスを回され後手に回ることを余儀なくされた。
 ただピクシーは例えば第19節の川崎戦あたりで見せたように夏場に向けて前線から無理にボールを追うのではなくまずはそれぞれのポジションに戻って守備ブロックを作りそこからカウンターを狙うような変更を施したり、シーズンも終盤に近付くにつれDFラインも前への出足が良くなり中盤とのギャップが気にならなくなるなど、微妙な調整を行いながらシーズンを乗り切った。それはセットプレーについてもしかりで、一向に改善しなかったセットプレーからの決定力とは対象的に、ベンゲル式とフェルフォーセン式をミックスしたようなピクシー流のゾーンディフェンスに対してあの手この手で挑んでくる相手チームに対して、少しづつ修正を加えながら穴を消して行った。実際高さでは他チームに対して圧倒的な優位性を持つ名古屋がゾーンで守るという選択は正しく、対戦相手はニアやファー、ヨンセンと後ろの選手のギャップ、ペナルティスポットのあたりとゾーンを外したボールを蹴り入れてきたが、しっかりと集中してさえいればそう簡単に失点するような気はしなかった。

 結果的に今シーズンの名古屋はリーグ戦で最終節まで優勝争いを演じて3位、ナビスコカップもベスト4という好成績を残した。勝ち点3が必要だった最終節でも勝ち切れなかったことや天皇杯でなんとなくゲームに入って準々決勝で手負いのG大阪に敗退したことなど歯痒さも残るが、ピクシーの監督初年度ということを考えれば、チーム間の実力が均衡して大混戦だったことを差し引いても上々の結果と言える。しかしおそらくこのままでは来シーズンも同様の結果を残すことは難しいだろう。それはシーズン終盤の失速を見るまでもなく明らかだ。
 他チームのマークが厳しくなるであろう09シーズンは勢いでは勝ち抜けないだろうし、中盤を中心にもっとソリッドな組織を作らなければならない。また過密日程を考慮すれば、もっとゲームをコントロールし、苦しい中でもしぶとく勝ち点3を獲得する勝負強さを身に付けなければならない。そしてそのためには中盤のWボランチがもっとボールに絡んでゲームを作らなければならないし、セットプレーからの得点力を向上すべく精度を上げることが必須条件だ。

 チームは既に新シーズンに向けて動き出している。二年半の間チームの最前線で身体を張り続けたヨンセンに代わり札幌からダヴィを獲得し、藤田、大森、米山、三木といったベテラン選手との契約も更新せず若返りに踏み切った。横浜・田中隼の獲得なども噂され、年が明ければ補強の話ももっと具体的な姿を見せてくるだろう。OB路線での組閣も進んでいる。クラブには財政面など俺達には見えない事情があるので、一ファンとしてただ信じて待つことしか出来ない。(ユースまでOB路線にするかどうかは別問題だが・・・)
 個人的にはヨンセンからダヴィへのスイッチについては前向きに捉えている。100%チームのために闘ってくれる選手だったヨンセンは、さすがにシーズン終盤には相手のマークもキツくなり得点のペースも落ちたが、いわゆるハズレのない選手だった。チームがどんなにだらしないパフォーマンスを披露した試合でも、ヨンセンに対して「裏切られた」気分で競技場を後にしたことは一度もない。しかしピクシー自身が目指しているサッカーを実現する上でDFラインの裏に抜けるスピードを持ったストライカーが必要というのであればそれは仕方がない話。
 例えば、前からプレッシャーを掛けて奪ったボールを素早く最前線のヨンセンに預けたとする。ヨンセンなら相手DFを背負いながら味方の上がりを待ってそれを使うことが出来る。だがダヴィならDFラインの裏へ抜けながらボールを受けることが出来るし、相手を背負ってボールを受けてもそのままターンしてゴールへと向かうことが出来る。最大のゴールチャンスであるカウンターからゴールへの最速ルートを考えた時優れているのは後者だが、ヨンセンにはその選択肢はない。またヨンセンのゴールパターンはサイドからのクロスに限定される(スルーパスからゴールを決めたのは07シーズンの味スタで本田のパスから決めたのぐらいしか思い付かない)が、ダヴィなら(ハイクロスに合わせる技術ではヨンセンに及ばないものの)得点パターンにもう少しレパートリーを広げられるだろう。もちろんそんなダヴィを生かすためには、中盤のセンターにダヴィの動き出しを見逃さずパス(スルーパス)を送れるような選手(札幌で言えばクライトン)が不可欠だし、クロスボールからの決定力の低下を補うためには玉田を筆頭にボックス内へと詰める人数を増やさなければならない。
 不安があるとすれば、まずはダヴィと玉田のプレーエリアが被ること。もちろん玉田もダヴィも一流選手なのでそれぞれの持ち場を離れてもプレー出来るだろうが、それぞれが最も得意としているエリアが重複していてはパワーは半減してしまう。あと意外と見落としがちな点ではあるが、ヨンセンが抜けた後にセットプレー時のゾーンディフンスが機能するのかどうかということ。ダヴィもサイズだけ見ればヨンセンと遜色ないが、個々のプレーヤーが最大限の集中力と戦術的な規律を守ることで成り立つ名古屋のゾーンディフェンスにおいて、信頼度抜群だったヨンセンの代わりがダヴィに務まるだろうか。これは竹内の代わりに田中隼が入ったとしても同じこと。ボールサイドから順にヨンセン、増川、吉田、竹内という180cm超の選手が並んでいたゾーンディフェンスから、ダヴィ、増川(バヤリッツァ)、吉田、田中という並びに変わったとしたら、不安を感じるのは俺だけではないだろう。

 とにもかくにも、ACLというクラブ史上最大の難関にしてチャレンジが待ち構える2009年は、今年以上にクラブが一丸となり強い持ちを持ってシーズンに臨み良い成績を残して欲しいと思う。
by tknr0326g8 | 2008-12-31 21:32 | Topics & Issues